前泊博盛編著『本当は憲法よりも大切な「日米地位協定入門」』(創元社)を読む③

2013年06月03日 10:05

その3.ただし米軍への新たな基地の提供に関しては
地位協定第二条1項(a)の後段
「個々の基地に関する協定は第二五条に定める合同委員会を通じて両政府が締結せねばならない」
とあり、理論的には具体的運用のなかでわが国政府が米国に基地の提供を拒否することも可能であるが、外務省の地位協定運用マニュアルであり琉球新報が2004年に暴露した機密文書、その名も『日米地位協定の考え方』 では、上記の第二条1項(a)について、「この条文は①米軍は日本国内のどこでも基地を提供するよう求める権利があること、②日本側はそうした要求に全て 応じる義務はないが、合理的な理由がなければ拒否できない、としています。さらに安保条約は、そうした基地がいるかいらないかといった判断については、 「日米間に基本的な意見の一致があることを前提に成り立っている」として、事実上、日本側が拒否することはありえないと明言しています」(本書引用)。

 いかなる国際関係においても外国基地の使用に関して外国軍とその接受国の間に「基本的な意見の一致」などありえない。だからこそ、通常はその軍の行動を平等な条約によって規制せねばならないのであるが、わが国の場合、それは条文と運用の何れにおいても担保されていない。

 

その3.我が国の首都圏上空には、一都八県にまたがる広範な米軍の管制空域が存在する。この空域はそれを管制しているのが米軍の横田基地であることから「横田ラプコン」と呼ばれている。この横田ラプコンの存在は、首都圏上空の制空権が先の敗戦以来、依然としてアメリカに掌握されていることを意味し、一旦緩急の際には、皇居が米軍による爆撃の対象になりうることを意味している。夢想するだに恐ろしい状況なのである。

また管制空域ではないが、米軍は「基地間移動」という名目で、北は三沢から南は沖縄まで全国の上空を飛びまわり、事実上の飛行訓練を実施している。つまり首都圏のみならず全国の上空が米軍に掌握されているということだ。

横田ラプコンの法的根拠は本書では見出せなかったが、他にも我が国政府は日米地位協定を通じて事実上の「治外法権」ともいえる様々な法律上の特権を在日米軍に付与している。これらの特権は、全て前述した②の在日米軍基地の自由使用を確保せしめ、これをさらに拡大せしめるのが目的である。

第一に、地位協定では、我が国に出入りする米軍関係者(軍人やその家族など)に対する出入国管理法の適用が免除されている。

日米地位協定第九条2項

合衆国軍隊の構成員は、旅券および査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員および軍属ならびにそれらの家族は、外国人の登録および管理に関する日本国の法令の適用から除外される。・・・

米軍関係者は、米軍基地を通じて我が国に入国すれば、旅券も査証も外国人登録も必要ない。よって当然に我が国政府は、現在我が国にいかなる人種の米軍関係者が何人存在しているのかについて正確な情報を有していない。無論、我が国に入国するアメリカ人のなかには米軍関係者を装ったCIA工作員も紛れ込んでいるだろうから、我が国の防諜体制はあってなきが如しなのである。

特に戦争の長期化と犠牲の拡大につれて、米軍では志願兵の数が減少しているため、アメリカ政府は高失業にあえぐ中西部の若者を金で勧誘し戦地に送り出していると聞く。しかしこうした彼らは戦前の我が国における軍人と異なり、軍人としての誇りや規律に欠けるから、勤務先の各地で問題行動を起こす危険性が高まる。にもかかわらず我が国政府は、犯罪予備軍ともいうべきこうしたアメリカの下級兵卒を自国の領内で野放しにしているのである。これでは、米軍犯罪がなくなるはずはない。

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